■吉田 伸氏 第三弾
物語のテーマ的な部分もお伺いしていきたいんですけれど、やはり『スピードグラファー』は人間の欲望を描こうとしているのでしょうか?
「アニメっていうのは、善とか悪とか観念的なことで戦ってるものが多いですよね。ストレートにお金のためにキャラクターが動いているっていうのは、あまり無かったんじゃないかと思います。だからそこは逆に、ストレートにそういうことでやっていきたいな、っていうのはありました。一番最後には覆しちゃうんだけど」
覆すんですか?
「どうなんでしょうね(笑)。でも水天宮みたいに、金だけのために人を殺したり、のし上がろうとしてるっていう、こんな純粋な悪党っていないよね、アニメには」
崇高な理念があるわけではないっていう。
「そうそうそう。何かあるんだろうな、と思いつつも……でもやっぱりコイツ金のためにやってるのかっていう」
それに対して、雑賀っていうキャラクターは、お金に象徴されるような現代の価値観を否定しているんじゃないですか。
「うーん……。いや、あんまり否定してないかな(笑)。というよりは、そんなことはどうだっていいってことですよね。他人の考えなんてどうだっていいと、最終的に思っているんじゃないのかな。30才過ぎた大人が、他人の考え方を矯正しようとか、普通はあんまり思わないですよね。そいつは、そいつの考え方で生きて行けばいいじゃない、と思ってしまっている。そこに関して正義とか、そういうことを語るつもりはまったく無いんです。『スピードグラファー』の登場人物は、皆がお互いやりたいことをやってるだけ……。それで、結果的にぶつかりあうところでは殺し合いにまでなるという。あんまり説教的な話にはしたくはなかったし、勧善懲悪モノでもないし」
それでは、視聴者に対して何かメッセージがあるとしたら、やりたいことをやって、元気良く生きてください、みたいな事ですか?
「そういうことなんでしょうね。好きなことをやって、どんな姿になってしまっても、それは本望なんじゃないですか? って」
ユーフォリアのようになってしまっても?
「そうそう。ユーフォリアになるのがいかんっていう事は、まったく書いてないです。自分が好きなことをやって、尻拭いを自分でするんだったら、そういう生き方をしたほうがいいよ、そのほうが面白いんじゃない? ってことですね」
もし吉田さんがユーフォリアになるとしたら、どんな姿になると思います?
「僕はね、骨格フェチなんですよね」
じゃ、骸骨の姿をした怪人ですね(笑)。
「人を見るとね、こう骸骨図みたいなのを思い浮かべてしまうんですよ。黒人の痩せてる人なんか見ると、すんごいパーフェクトな骨格をしている、という気がする」
やっぱりパーフェクトな骨格がいいんですか。
「そうですね。僕は姿勢が悪いから、それがコンプレックスなのかもしれない。骨格がキレイな人を見ると、ハァ〜ってなりますね」
ところで『スピードグラファー』には、秘密倶楽部という存在があります。ああいった倶楽部というものの存在には、どれくらいリアリティがあるんでしょう?
「その辺の感覚には年齢的なところで微妙に差があるんじゃないでしょうか。ああいう秘密倶楽部みたいな存在って、今の若い子から見ると、有り得ない設定だと思うかもしれないんだけど、『スピードグラファー』は、バブル時代というのが、一つのネタになっているから、結構有りかな、と思ったんですね。何故かって言うと、バブルってそういう時代だったし」
そうなんですか!?
「最近では、糾弾されているような、談合みたいなことが、当たり前にあった時代ですから。皆、それを知っていても文句を言わなかった。政党にしたって、フィクサーのような存在がいて、その人が裏で操っているというのが公然の事実としてあったし。そういうことが本当にあったわけですよね。今の若い子たちは、本当にそういうことがあったとか、フィクサーがいるっていうことを知らないわけだよね。そういうことはバブルの崩壊で無くなっていったから。『スピードグラファー』の秘密倶楽部っていうのは、バブルの時代における、接待だとか、談合が行なわれていた場ってことだよね」
今でもそういう秘密倶楽部は存在するんでしょうか?
「今だって本当はあるんじゃないのかなあ。規模は小さいだろうけど」
あるのかあ……(遠い目)。
「そういうところの感覚って世代によって全然違いますよね。僕らが就職した頃は、終身雇用だったり、年功序列だったりとか、絶対に変わらないものがあるんだ、自分が一度手に入れたものはなくならないっていう、神話みたいなものがあった」
そういう時代は終わったわけですが、かといって、その代わりになるような価値観があるかっていうと、何も無いですよね。
「終身雇用とか年功序列といったものが無くなって、個人の能力が重視されるようになりはじめたわけですよね」
でもそうなることによって、自分には何もできないなあ、と自信を失っている若い人が多くなっていると思います。そういう人たちが『スピードグラファー』のキャラクターたちのがむしゃらさを見たら、何か勇気みたいなものを持てるんじゃないか、と思うのですが、どうでしょう?
「そうですね……。最終的にはね、なんか意外と面白いものが観れたよ、と言ってもらえればいいな、というのがありますね。内容が良いか悪いか、暗いか明るいかというのは関係なく。面白いものを観ると人間は元気になると思うし、僕はそういうことを信じてますね」
では、最後に、これからシリーズ終盤に向けての『スピードグラファー』の見どころを教えてください。
「これから水天宮というキャラが、どんどん面白いことになっていくし、物語自体が、ここまでやるの? ってところまで行きますから、楽しみにしていてください」
楽しみです! 本日はありがとうございました。
インタビュー・構成:サガラノブヒコ
©2005 GONZO / TAP
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