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RED GARDEN全話を考察!
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第5回 「生きる」ことへの意志の変化、その意味

「生と死」を分けるものとは何か。それを『レッド ガーデン』のドラマはアニメーションとしては新しい筆致で模索し、根源的な追及をしている。
これは古典的な命題であるが、決して「時代遅れ」ということではない。話はむしろ逆で、古典には時代を超えて伝わるものがあるから、 本作もこの先の未来に向けて普遍的な人間性への問いかけをし続ける「新たな古典」となる可能性がある。
もともとゴシック・ホラーが語り継がれてきたのも、産業革命以後の「科学時代」で人の抱える問題を照射するからである。
「フランケンシュタインの怪物」が象徴しているように、ゴシック・ホラーに登場するモンスターたちは、 「人とそれ以外のもの」の本質的な差違について、「生と死」を境界に置くことで語っている。なぜそうした問題提起が、繰りかえし浮上するのか?
それは、科学という「理」が物理的な「人の生死」という根源的なものを左右するような時代になれば、人の魂を生かす「情」の問題が 置き去りにされるというのが最大の理由だ。
その結果、精神と肉体のバランスを欠いた状態が容易に発生し、それこそ「生ける屍」のような人種が横行するに違いない。
食糧や医療など「人を生かすシステム」が当たり前になり過ぎた21世紀初頭の現在、そうなってはいまいか?
だからこそ、『レッド ガーデン』のような寓話で「われわれは本当の意味で生きているのか?」という危機感にもとづく自問自答が大事になる。
それはこの数世紀、非常に古くて新しい命題なのである。
その新しさは、たとえば主人公たちの敵対する側の勢力(ドロル)が、妙に近代的であることにも現れている。当初は「獣人」という野蛮な 存在かと思われた彼らは、変貌前はニューヨークで家族をもつ普通の社会人として暮らしている。しかも一族の中枢は製薬会社に 奥深く食い込み、最新医療設備の中で滅亡の運命と闘っている。その近代設備と「呪い」という古式な要素は対立して見えるかもしれない。
しかし、"medeical"などの語源を調べればすぐ分かるように、呪術による病への対処と近代医療とは実は地続きで進化したもので、 本質的な差はない。もし太古から生き延びた呪術的一族が今も身を隠すとすれば、最適なポジションが医薬関係なのだ。
そういった根源的なこともふくめ、おそらく「生きていること」が本当は何を意味するのか、まったく理解せずに「受け身」で育ってきたのが 4人の主人公である。それは観客のわれわれも、ほとんど同じであろう。だが事件を通じ、自分の意志で「生を選択」した彼女たちは、 その積極性への変化によって結果的に身辺にあったさまざまな問題の真実に気づいていく。理解を阻んでいると決めつけていた父親の 深い愛情。厳しいと思っていた雇用者の言葉の陰にある優しさ。重荷に思っていたかもしれない幼い弟妹への愛おしさ……
他にも挙げれば数限りないが、あまりにも「当たり前」と思っていた日常的な齟齬の真相と、意味の変化が次々と浮き彫りになる。
最後の闘いを前にして、各人がその日常の貴重さを噛みしめる第21話は、心情的には最大のクライマックスである。
そして、第22話(地上波放送の最終回)。大切な人たちとのすべての記憶が失われたとしても、 それでもなお彼女たちは未来へと「生きぬくこと」をあえて選択する。それは彼女たちの精神的な成長を意味しているし、 同時に積みかさねてきた経験が「心の戦い」であったことを示している。
その共通の経験をもたないリーズだけが運命をともにできない事実が、なんとも象徴的ではないか……。
『レッド ガーデン』とは、このように日常を生きるわれわれも気づかないうちに巻きこまれているかもしれない大きな「心の戦い」と、 「生きるため」の打開を描いた作品だった。表面的な「謎」は残ったかもしれないが、彼女たちの魂がどういう変化を迎えたのか、 それが観客のわれわれとどういう関係をもつかは、ほとんど疑問の余地はない。
いま一度、そうした道しるべを頼りに、彼女たちのたどった精神的な足跡とその変化を追ってみてはどうだろうか。
そうすることで、自分自身の未来にも何か輝きが見えてくるかもしれない。



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氷川竜介

経歴:アニメ特撮評論家
・雑誌連載『ガンダムエース』『スカバー!ガイド』『特撮ニュータイプ』
・バンダイチャンネル:Webとメールマガジン、特集、みどころ紹介。
・ガンダムSEEDクラブ:コラム連載
・フレッツスクエア『機動戦士ガンダム』あらすじ、コラム
・DVD『機動戦士ガンダム』公式ホームページ あらすじ






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