稲垣隆行監督ロングインタビュー
―― 砂ぼうずが初監督作品とのことですが、意気込みやそこにいたるまでのエピソードを教えてください。
実は、もともと個人的にうすね正俊さんの原作が好きだったんですよ。
これまで演出の仕事をしてきて、そろそろ監督をやってみないかという話が出てきたんです。
ちょうどその時、「次に砂ぼうずという作品をやるんでどうでしょう」という話がきて、「この作品ならいける」という勝算が自分自身あったので、監督を引き受けました。
この作品は、誤解されそうな微妙なニュアンスで表現されている部分が多いので、その部分を(自身が監督をすることで)うまく表現できたら面白いなと、思っています。
―― 砂ぼうずの制作にあたって、監督のテーマは?
個人的に、最近のアニメは人間のナマの欲望をあまり出さない作品が多いと感じているので、その部分にこだわりたいと思いました。
砂漠という過酷な環境で生きる中での生活感、人間の本能や欲望に忠実な姿を表現できたらと思っています。
それに加えて、視聴者の幅も広がる作品にしたいなあ、と。
マニアックな人には銃器の描き込みや演出の部分でニヤリとしてもらえるように、一般の人がみてもストーリーやコメディ部分で楽しんでもらえるように、そして、小さい子供もちょっと背伸び気分で、親に隠れてでもコッソリ見たくなるような、そんな作品が作れたらと思っています。
―― 制作に入ってからのエピソードはありますか?
この作品は劇中に歌を入れるなど、最近ではあまり見かけない演出が多いので、製作現場の若い人たちが戸惑って、それを説得するのが大変でした。
1、2話を作っていた頃は、「本当にこれで大丈夫なのか?」という声が周りからずいぶんあったんですよ(笑)。
初めのうちは「いや、これで大丈夫だから」って説得してましたが、次第に、「ああ、こういう雰囲気の作品なんだ」ってみんな納得してくれるようになりましたね。
――砂ぼうずを制作する中で苦労したシーンはありますか?
やはり、第1話が完成するまでかなり時間がかかりました。
砂ぼうずの愛用しているウィンチェスターがスローモーションで排莢するシーンなどにもこだわりましたから。
また、原作のマンガはモノクロで描かれているため、アニメで色をどう表現するのか、初めのうちはかなり悩んで試行錯誤を繰り返しました。砂漠の暑いイメージをいかに表現するかという点も苦労しましたね。
―― 声優さんやアフレコ現場の雰囲気はどうですか?
声優の皆さんは、いい人が集まってくれたので本当に嬉しいですね。
アフレコ現場では、もっとアドリブをバンバン入れてくださいとお願いしてます。
芝居の幅を限定しないで、現場のノリで一番美味しい所をセリフとして拾っていく、という形にしたいんです。
主人公の砂ぼうずの声を鈴木千尋さんにお願いする時も、幅のある演技ができるという点が決め手でしたね。
振り返ってみて、砂ぼうずというキャラクターを鈴木さんに演じてもらって本当に良かったと思っています。
他のキャラクターも、僕のイメージの中でほぼ固まっていた方に担当してもらえました。
雨蜘蛛を担当していただいている若本規夫さんは、スケジュールの調整が大変だったんですが、「雨蜘蛛は若本さん以外ありえない!」と無理を言ってなんとか引き受けてもらいました。
若本さんにも最初はいろいろと要望を出していましたが、今ではその場のノリで演じてもらっています。
―― BGMや効果音、挿入歌も作品中の大きなウェイトを占めているとのことですが?
基本的に音と映像がミックスした作品が好きなので、砂ぼうずはBGMの占めるウェイトも高いです。
他の作品を担当しているときも勝手に、「この場面にはこのBGMを入れたい」とか想定しながら、絵コンテを描いていたんですけど、実際の作品は全然違った曲が入って悔しい思いをしたことが良くありました。
この作品では監督なので、色々とワガママを言って、自分が場面に一番マッチすると感じているBGMを入れています。
また、スピーカーだと、環境によって音量や聞こえ方が違うと思うんですが、大音量で聴いていただけると、さらに楽しめるよう仕上げています。
挿入歌については、もともと原作に歌が多い作品なので、それを最大限生かしたかったというのがあります。
その辺は、音楽を担当してもらっている田中公平さんと楽しんで打ち合わせをしました。
「串田アキラさんにゲスト出演してもらいたいなぁ」と話していたら本当に実現したのが嬉しかったですね。
次は、堀江美都子さんにも出演してもらう予定です。
田中さんの曲はダイナミックなものが多いので、映像と曲を合わせるのに苦労するという話を聞いていたので、曲に負けないような作品にしたいなあ、と常に意識しています。
逆に、演出として音を一切入れないようにしているシーンもありますね。
テレビでは無音状態が続くと放送事故になってしまうんですが、放送事故になるギリギリまで無音にしたシーンもありますよ(笑)。
―― 原作とアニメであえて内容を変えたという部分はありますか?
原作のエピソードによっては、内容がマニアックすぎて解りづらい部分があるので、誰がアニメを見ても楽しめるように、コメディ部分を入れてストーリーを調整するといった事をしています。
しかし、原作の世界観を壊したくないので、なかなかバランスが難しいところです。
―― 銃器の描写にかなりこだわりがあるようですが。
元々、ガンが好きなんですよ。BB弾が登場する前からエアガンを買っていたくらいですから。
ブローバックのエアガンが出たときなんかは感動しましたね。
スタッフも全員ガンマニアなんですよ。
砂ぼうずは原作が銃器にこだわっている作品なので、アニメでも銃器がメインの話は表現にとことんリアルさを追求してます。
もちろん、そこまでこだわる必要のない話数ではストーリーに重点を置いていますが。
例えば、劇中で砂ぼうずの持っている銃は、種類で言えばショットガンですが、「ショットガン」とは言わずに「ウィンチェスター」と銃の名前で呼んでますよね。
銃に興味のない人が見たら「これはショットガンだね」と言うだろうけども、詳しい人が見たら「いや、これはウィンチェスターだ」とすぐに解るようにリアルに描いています。
もちろん、銃の効果音に関してもかなりこだわっています。
ウインチェスターの音は、初めのテイクではもっとカッコイイ音だったんですけれど、SF的な音で現実感が乏しいと思ったんですよ。
ウィンチェスターは砂ぼうずが愛用する銃ですから、その音だとちょっと違和感がでるよなあ、ということで、効果音が完成するまで相当手間をかけました。
―― アニメのオープニングに実写を採用したのはなぜですか?
オープニングを実写映像にしたのは僕のアイデアです。
アニメの中で異世界を描いて生活感を表現すると言っても、テレビを見ている人には「これはマンガの中の話じゃん」という風に捉えてしまって、砂漠という世界のイメージがすぐに浮かばないのではないかという不安がありました。
オープニングで実写の砂漠のシーンから始まれば、視聴者がこの世界を想像する手助けになるかな、と思ったんです。
ちなみに、撮影を鳥取砂丘で行ったと思っている人が多いようですが、実際は九十九里浜で行いました。
―― テレビ放送とDVD無修正版との違いを教えてください。
まず、一番の違いは「砂ぼマーク」が無いことですね。
もちろん、砂ぼマークの下の部分もしっかり描いてありますよ。
この作品の色指定を担当しているのは女性なんですが、さすがにその仕事はさせられないので、この部分だけは制作担当が自分で色指定をしています(笑)。
他にも、放送時には削ったカットをDVD版では復活させています。
実は、超有名アニメーターに描いてもらったシーンもあったんですが、テレビでは放送できずに泣く泣くカットしたんですよ。
初期の頃は、どこまでテレビで放送できるか手探りの状態だったんですが、途中からはテレビで放送できる内容とできない内容がわかってきたので、テレビ用とDVD用に分けて作っている部分がかなりあります。
DVD版ではセリフもかなり原作に忠実に再現しています。
アフレコも最初から別にとってあるシーンが結構あります。
特に15、16話は、シナリオの段階から2パターン存在していて、コンテも2種類作っています。
15、16話は、テレビ版と無修正版の両方をDVDに収録する予定なので、両方をを見比べてもらうとさらに楽しめると思いますよ。
―― アニメの最後に流れる次回予告が面白いですよね。
昔、僕が好きだった「戦国魔神ゴーショーグン」というアニメは、キャラが掛け合いで次回予告をしていたんですよ。
それで、シナリオ担当の山口宏さんに、砂ぼうずもそういう形で次回予告の原稿を制作してもらえないかとお願いしたんです。
最近では山口さんもノッてきて、15秒では絶対収まらない量の小話が一杯詰まった原稿が届くんですよ。
それを収録現場で一生懸命削って、どうにか15秒に収めています。
アニメファンなら思わずニヤリとしてしまうパロディも多いんですが、その辺は僕の趣味で入れています(笑)。
―― これからのストーリー展開を少し教えてください。
今までのエピソードで張ってきた伏線が集約されていきます。
毎回アニメを見ている人なら「なるほどなあ」と納得してくれると思いますよ。
今後は、砂ぼうずたちが大きな流れに巻き込まれていき、かなり過酷な状況に追い込まれていくことになります。
―― 最後に視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
深く考えないで、楽しめる作品にしたいと思って作っていますので、普段アニメを見ない人も夜中にテレビをつけたら「普通とは違う、なんか変なアニメを放送してるなー」と、楽しんで見てもらえれば一番嬉しいですね。
原作ファンでなくても楽しめる作品にしていますので、ぜひ皆さん応援してください。
© 2004 うすね正俊・エンターブレイン/便利屋組合