テレポート、パラレルワールド……怪獣の瞬間移動を科学で説明?(前編)

前回に引き続き、中性子や光子などの「原子よりも小さい量子の世界」量子論について語っていきたい

 ビリヤードの台の中に、ボールがたくさんある状態を想像してほしい。ひとつのボールをキューで叩くとそのボールが他のボールに当たって、たくさんのボールが連鎖的に動いていく。複数のボールが、お互いのボールの動きに干渉するのだ。これは物質の「波の動き」と考えることができる。

 波では、ボールひとつだけだと起こりえない運動の広がり方をするのがわかるだろう。逆にボールがひとつでは、別の力が加わらない限り、直線的な単純な動きしか取ることはできない。これを「粒子の動き」という。

 では量子は「波」だろうか「粒子」だろうか? 量子がたくさんある状態の時には、動きは波として振る舞うということは簡単に想像できる。では量子をひとつひとつで扱ったら? そうすれば当然「粒子の動き」になるだろう……。
ところがそうではない!

  量子はたとえひとつひとつで扱おうと、波のような動きをすることが実験で確認されている。まるで、存在しないはずの別の量子に干渉されたような動きを見せるのである。これは「量子は、粒子と波の両方の性質を持つ」と言われる現象だが、どうしてひとつしかない量子が、「存在しない別の量子に影響されたような動き」を見せるのか?

 ここで、「量子の存在は確率で表される」という前の話が再び出てくる。たとえ量子がひとつしかなくても、確率としてはさまざまな場所に存在している。だから波のように振る舞う、というのである。

 だんだん、わけがわからなくなってきたかもしれないが、もうちょっとおつき合いいただきたい。量子がAという場所にあるときと、Bという場所にあるときの2つのパターンがあったとする。ここで量子がAあるいはBのどちらかにひとつしか存在しなかったとしても、Aにある量子は「Bにも量子がある」と、Bにある量子は「Aにも量子がある」という動きを見せることがある。これを説明する理論として、量子が「Aにある世界」と「Bにある世界」の両方が存在するという「多世界解釈」なるものがある。我々がよく知っている言葉だと、これはパラレルワールドであると言うこともできる。 また量子論の世界では、「何もない空間」というのは存在しない。あらゆる空間に突然物質と反物質が現れ(対生成)、それらが互いにぶつかって消滅(対消滅)しているのである。つまり、「何もない空間から物質が突然現れる」のは、量子の世界では日常茶飯事なのだ。

 「確率で存在」「多世界解釈」「何もない空間から対生成と対消滅」……。こんな話を聞いてくると、突然空間にロボットやら怪獣やらが現れたところで、何の不思議もない気がしてこないだろうか。今までここに書いてきた量子論は、非常に単純化して説明しているので、もちろんこれがすべてではない。それに、量子論のすべてが科学者によって解き明かされているわけでもない。「宇宙は11次元である」「我々の宇宙の他に、たくさんのベビー・ユニバース(赤ん坊宇宙)が存在する」などという理論もある。

 人類が知らないことは、まだあまりにも多い。あの黒いロボットの謎が解き明かされる日は来るのだろうか?