テレポート、パラレルワールド……怪獣の瞬間移動を科学で説明?(前編)

「こちら地上班、緊急事態が発生した。大至急我々を宇宙船へ転送してくれ!」

SFドラマでこんなセリフを耳にしたことがあるだろう。物質をある場所から別の場所へと瞬間的に移動させる転送技術、いわゆるテレポーテーションについての会話だ。人間を転送しようとしたところ、転送装置にハエがまぎれ込んでしまったため、人間とハエが合体した怪物ができてしまった、なんて映画もあった。

最近世間を騒がせている「怪獣」がなぜ地上に突然現れるのか。これを説明する説の一つとして最近語られているのが、この「テレポーテーション」である。「テレポートなんてSFや超能力が出てくる小説だけの世界さ、そんなの実際に起こりっこない」と思う人は多いだろう。ところが現実世界では「量子テレポーテーション」という技術が研究され、実験にも成功しているのである。

「量子テレポーテーションって何だ?」それを説明するには、まず量子論というものについて簡単に説明しないとならない。量子論とは、原子よりも小さい世界、つまり量子(原子を構成する中性子など)の世界の法則について説明した理論である。量子の世界というのは非常に不思議で、我々が目に見ることができる世界(古典力学の世界)からは想像もつかないようなことが多数起こっている。

目の前にボールがあるという状態を考えてみよう。あなたが、ボールがそこにあるのを見て、ボールの存在を確認したとする。これを長ったらしく言うと、ボールに光が当たり、その光がボールから反射して、あなたの目で光をとらえて「ボールを観測」した、ということにある。つまり光がないとか、あなたが目を閉じているとか、「観測」する手段がなければボールがあるかどうかはわからない。

量子の世界でも、量子がそこにあるかどうか調べるには「観測」する必要がある。ところが観測する前は「量子は○○の範囲に○○%の確率で存在する」としか言えない。これを「確率の雲の状態にある」といい、「観測」した瞬間に存在が「確定」するのである。

「『観測しないと確定しない』なんておかしいじゃないか、誰も見ていなくても、あるものはそこにあるだろう」とも思われるだろう。だが量子というミクロの世界では、このように「確率」で物事を説明した方がずっと都合がよく、実際にマイクロプロセッサの開発などという科学技術分野で、この量子論が利用されているのである。

さて、量子テレポーテーションの話に戻ろう。「量子が相互作用するため、量子Aの状態を観測すると、量子Bのこともわかる」ということがある。言い換えると、「量子Aを確定すれば、離れた場所にある量子Bも確定される」ことになり、これを応用すると、量子の情報が瞬間移動したかのように見える「量子テレポーテーション」となる。

ところがこの「量子テレポーテーション」、残念ながらあくまで「量子の状態」という情報を転送するだけで、物質を本当に別の場所に転送できるわけではない。そんなわけで、量子テレポーテーションが実用化されても、ハエ人間が現実のものになったり、宇宙船から地上に転送したりはできそうにないのである。

それでも、これで怪獣の瞬間移動が完全に説明できなくなったというわけではない。次回ももうちょっと、量子論とテレポートなどについて語ってみたい。