怪獣騒ぎで当局大混乱

「怪獣が出た!」「いや、巨大ロボットだ!」この言葉に、日本は大混乱となった。

 自治体や地元警察などには、午後10時頃には「怪獣」「ロボット」の報が舞い込んできたが、応対に出た職員はこれを信じられず、対応は後手後手になった。

 「もちろん、電話で聞いただけでそんな話が信じられるわけありませんよ! せいぜい何かの大型動物がどこかから逃げ出したのを見たんじゃないか、くらいにしか思えなかったんです。通報の内容もとにかく『怪獣だ!』という興奮したものばかりで、場所を把握することも困難でした」(地元警察署職員)

  およそ500メートルという「怪獣」の巨大さのため、通報場所が広範囲に及んだことも事態を混乱させた。この時点で「御友島橋が崩落」「辻見山で爆発」という通報も入ってはいたのだが、「怪獣!」という錯乱しかかった大声によってすべてはかき消され、状況を正確に把握することはもはや不可能になっていた。
頼りは警察、消防のヘリコプターからの報告だったが、夜だったことと、破壊の被害による一部停電により、これも困難なものとなった。さらに警察にも消防にも、怪獣に対処するためのマニュアルが用意されているわけもない。

 一方国防軍では、同時刻には巨大な「何か」の存在をレーダーでキャッチしていたとされる。だが、航空国防軍の哨戒機が現地に到着したときには、怪獣の姿は消えていた。その一方で哨戒機の暗視カメラは被害状況をかなり正確に捉えていた。その報告を受けて武山駐屯地は、陸防軍第31普通科連隊より先遣視察部隊を自主災害派遣した。
だが、正規の災害出動には神奈川県知事の要請が必要だ。しかし県庁ではやはり「怪獣」の声の洪水に職員の対応は混乱し、すでに帰宅していた知事は、事件を翌朝のTVで初めて知ることになったという。

 政府への連絡も混乱していた。連絡役の職員は「怪獣」の話を相手にまともに取り合ってもらうため、TVのニュース映像を保存したディスクを持ち歩き、いちいち再生しながら説明したという。だが、そうやって必至に説得して回っても、「ではその怪獣は今どこへ行った」というと誰も答えられない。「500メートルもあったというなら、そんな巨大なものが忽然と消えるわけがない」という常識的な考えが、またも現状認識を妨害することになった。

 怪獣のゆくえがどうあれ、山の崩落などにより多数の死傷者が発生したということが夜明けになってはっきりすると、やっと救援活動が動き出すことになった。一方怪獣は海中に消えた可能性もあるため、海上自衛軍の対潜哨戒機が捜索を行っているというが、現在のところ発見の報は出ていない。そもそも海防軍には潜水艦を探す専門家は揃っているが、今回は自分が何を探しているのかすら、よくわかっていないのだ。

 まるで映画の中でしか描かれたことがなかった、宇宙人が襲来したときのような混乱状況だった。今まではこんな比喩を使うと「そんな大袈裟な」と言って鼻で笑われたものだが、今は誰も笑えない。あの怪獣が宇宙生物だということも、実際にあり得ることになってしまったのである。すでに「別の場所で怪獣が現れた!」という噂が各地で報告され、それが単なるデマかどうか、当局は何度も確認する作業に追われている。

あの日を境に世界が変わり、常識は通用しなくなった。現在、疑心暗鬼がすべての人を包み込んでいる。